帰郷(危篤電報を受け取って)
季節はずれなのはホトトギス
誰が笑ってるも知らぬまま
喉に血吐見せて 狂い鳴く
あわれ あわれ 山のホトトギス
もうすぐだね 君の家まで
雨がぬらすだけの田植唄
黒い牛の背中に乗った人
空は見てるだけでもこわれそう
ながい終りのない田植唄
もうすぐだね 君の家まで
どこへ流れてゆく天の川
渡る船の様な流れ星
僕のふたつの目で見えるもの
全部流せ 流せ 天の川
もうすぐだね 君の家まで
能古島の片想い
つきせぬ波のざわめく声に 今夜は眠れそうもにない
浜辺に降りて裸足になれば とどかぬ波のもどかしさ
僕の声が君にとどいたら ステキなのに
つめたい風は季節を僕に 耳うちすると逃げてゆく
ときおり砂はサラサラ泣いて 思わず僕ももらい泣き
僕の胸は君でいっぱいで こわれそうだ
遠くにみえる灯は
南へ行く船の幸せかな
悲しいだけの今夜の気持 なにかをすればまぎれると
星屑なんか数えてみても 涙でそれも続かない
君が僕の中にいるかぎり
波の声で僕は眠れない 本当なんだ
たいくつ
つめがのびている
親指が特に
のばしたい気もする
どこまでも長く
アリが死んでいる
角砂糖のそばで
笑いたい気もする
あたりまえすぎて
手紙が僕にくる
読みづらい文字で
帰りたい気もする
ふるさとは遠い
紙飛行機
白い紙飛行機 広い空をゆらりゆらり
どこへ行くのだろう どこに落ちるのだろう
今日は青空が隠れている
風が吹いてきたよ 風にのれようまく
だけどあまり強い風は 命取りになるよ
君はプロペラを知らないのか
雨が降ったら弱い翼はぬれてしまう
強い雨も風も 笑いながら受けて
楽しく飛ぶ事も 悪い事じゃないよ
だけど地面に落ちるまで短い命だね
君は明日まで飛びたいのか
白い紙飛行機 どこへ行くのだろう
白い紙飛行機 どこに落ちるのだろう
夏まつり
十年はひと昔 暑い夏
おまつりはふた昔 セミの声
思わずよみがえる夏の日が
ああ今日はおまつり 空もあざやか
自転車のうしろには妹が
ゆかた着てすましてる かわいいよ
もらったおこづかいなくすなよ
ああ今日はおまつり 早く行こうよ
綿菓子をほおばれば すぐとける
友達もみんな居る 笑い声
道には並ぶ店オモチャ売り
ああ今日はおまつり 何を買おうか
十年はひと昔 暑い夏
ふるさとはふた昔 夏まつり
神無月にかこまれて
人恋しと泣けば十三夜
月はおぼろ淡い色具合
雲は月を隠さぬ様にやさしく流れ
丸い月には流れる雲が ちぎれた雲がよくにあう
風がさわぐいまや冬隣り
逃げる様に渡り鳥がゆく
列についてゆけない者にまた来る春が
あるかどうかは誰も知らない ただひたすらの風まかせ
神無月に僕はかこまれて
口笛吹くそれはこだまする
青い夜の空気の中に 生きてるものは
涙も見せず笑いも忘れ 息をひそめて冬を待つ
夜のバス
夜のバスが僕をのせて走る
暗い道をゆれる事も忘れ
バスの中は僕一人
どこにも止まらないで風をきり走る
バスの中はとっても寒いけれど
君の嘘や偽り程じゃない
君のくれた青いシャツを
今日は着ていないだけ まだ暖かいよ
君なら一人で明日を
むかえる事も出来る
夜のバスが僕をのせて走る
広い窓もただの黒い壁だ
なにもかもが闇の中に
ただ、夜のバスだけが矢の様に走る
白いカーネーション
カーネーション お花の中では
カーネーション 一番好きな花
子供の頃には 何も感じてなかったけれど
いまでは不思議なくらいきれいだな
白いカーネーション お花の中では
カーネーション 一番好きな花
どんなにきれいな花も いつかはしおれてしまう
それでも私の胸に いつまでも
白いカーネーション お花の中では
カーネーション 一番好きな花
かんかん照り
やけついた屋根がゆらいで見える
お日様は空であぐらをかいて
スズメたちはやけどをするのが恐いのか
どこかに隠れてる
水道の水がぐらぐらたぎり
セッケンはすぐにどろどろとける
恋人はレモンのジュースを作るのに
困った顔してる
いやな夏が 夏が走る
帽子を忘れた子供が道で
直射日光にやられて死んだ
僕の目から汗がしたたり落ちてくる
本当に暑い日だ
動かない事が一番いいと
寝転んでいても 汗ばむ季節
恋人はやさしくよりそってくるけれど
心も動かない
いやな夏が 夏が走る
あつい夏が 夏が走る
東へ西へ
昼寝をすれば夜中に 眠れないのはどういう訳だ
満月 空に満月 明日はいとしいあの娘に逢える
目覚まし時計は 母親みたいで心がかよわず
たよりの自分は睡眠不足で だから
ガンバレ みんなガンバレ 月は流れて東へ西へ
電車は今日もすしづめ のびる線路が拍車をかける
満員 いつも満員 床にたおれた老婆が笑う
お情無用のお祭り電車に 呼吸も止められ
身動き出来ずに夢見る旅路へ だから
ガンバレ みんなガンバレ 夢の電車は東へ西へ
花見の駅で待ってる 君にやっとの思いで逢えた
満開 花は満開 君はうれしさあまって気がふれる
空ではカラスも敗けないくらいによろこんでいるよ
とまどう僕にはなんにも出来ない だから
ガンバレ みんなガンバレ 黒いカラスは東へ西へ
あどけない君のしぐさ
せんたくは君で 見守るのは僕
シャツの色が水にとけて
君はいつも安物買い
僕のセーターはとても大きくて
君はそれをしぼれないと
僕の腕を横目で見る
君のエプロンは赤い花模様
シャボン玉がひとつ ふたつ
晴れた空に こぼれ落ちる
つめたい部屋の世界地図
はるかなはるかな見知らぬ国へ
ひとりでゆく時は船の旅がいい
波間にゆられてきらめく海へ
誰かに似てるのは空の迷い雲
潮風に吹かれ 何も考えず 遠くを見るだけ
やさしさがこわれた 海の色はたとえようもなくて悲しい
汽笛をならしてすれちがう船
こんにちはの後はすぐにさようなら
見わたすかぎりの水平線の
かなたにあるだろう 僕の行く国が
とびかうカモメは 陸が近いのを
おしえてくれる
はるかなはるかな見知らぬ国へ
ひとりでゆく時は船の旅がいい