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2004年11月11日
「月の砂漠をさばさばと」北村薫著 おーなり由子絵
北村薫が書いた母と子への本
図書館へ、本を探しに行った(当たり前だが)。「日本の小説」の「き」の列をチェックしてこの本に会った。
北村薫は好きなミステリ作家である。著書は全て読んでいると思っていたのに抜かりがあったのか。即、借りてきて読んだ。
これはミステリではない。童話というのか、絵本というのか、「星の王子さま」のようにイラストがついている。小学生の女の子とお母さんの日々を描いた12の話。北村薫のユーモアのある筆致に、どの話もふふっと笑ってしまう。
お母さんは作家なので、「ケーキ屋さんの子供」が「おうちのケーキを食べられる」ように、娘のさきちゃんはできたてのお話が聞ける。当意即妙、変幻自在なオリジナルお話。さきちゃんが作文に書いたら、先生が「あはは、おっかしい!」と書いて返してくれるような面白い話だったりする。
言葉が伝わる母子なんだな、と思う。笑いを誘う言葉、思いがけない連想を誘う言葉。母と子はお互いに何を感じたのか想いあうふたりでもある。
”あとがき”のかわりの文、「さきちゃんとお母さんのこと」で、作者はこんなふうに書いている。
「割合、普通に(というのも変ですが)、さきちゃんたちのように、お母さんとお子さんで、生活のチームを作っている方に、お会いします。」(中略)
「そういうお宅では、《親子》の縦のつながりが《友達》の横のつながりに、より近づくような気がしました。」(後略)
北村薫の作品には、素直で自分をしっかり持っている女の子や、いきいきと魅力的な働く女のひとが登場する。彼女たちの心の動きがとてもリアルなので、この作家をずっと女性だと思っていたほどだ。上の文を読んで、このような優しい目での観察があってのことかと腑に落ちた。
これは、「チームを作って」暮らしている母と子への素敵な応援歌である。
買うべきは単行本か?文庫か?
さて、図書館に本を返して、その足で書店へ行った。ところが単行本はなく、新潮文庫版があった。すぐ手に入れたい、でも「星の王子さま」を文庫でもちたいか?迷いつつめくったオマケ、文庫化するときの「解説」が大ヒットであった。
梨木果歩「日常を守護する」
「ミステリのことはあまり知らない」梨木さんは、ある児童文学関係の雑誌で初めて北村薫の作品に会ったという。それがこの本に収録されている「くまの名前」である。一読して「細部にわたるリアリティに、日常生活に対する、確信犯といってもいいような確固たる意志を持った愛情」を感じ、「作家本人の世界観まで好ましく思える作品」 と述べている。
ミステリの解説ではないから謎や推理の組み立てにとらわれず、それでいて、この本についてだけでなく、北村薫の作品世界の本質的な解説となっている。
ファンなら読むべき一文である。
これはもう、単行本も文庫も持つしかない。一冊は「チームを組んで」暮らしてきて(さきちゃんのお母さんのような心のゆとりはなかった。後悔)、いまは2人の女の子の母となっている娘に贈ろうか。
「月の砂漠をさばさばと」 北村薫著 おーなり由子絵
1999年8月 新潮社
「月の砂漠をさばさばと」北村薫著 おーなり由子絵
2002年7月 新潮文庫
投稿者 蒼木そら : 2004年11月11日 01:11
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