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2004年10月11日
夜からの声 山田太一作
「夜からの声」紀伊国屋ホール2004年9月21日~10月2日
地人会公演
作:山田太一 演出:木村光一 装置:高田一郎
出演: 風間杜夫 西山水木 佐古真弓 花王おさむ 倉野章子 長谷川博己
幕が開くとマンションのリビングルーム。休日の午前、仕事をしたまま寝込んでしまったという風情で風間杜夫がソファから起きだしたところである。和服姿の妻西山水木がバタバタと登場する。明るく賑やか。和服は勤め先の居酒屋チェーンの制服であり、西山はパートながら重用され、今日も他店の指導に出勤するところという。娘佐古真弓(20代?)も、あれこれ母親とやりとりのあと出かける。
ありがちな休日の朝の風景である。しかし、このごく普通(に見える)家庭は、突然訪れる来客によって思いがけない人間関係に巻き込まれてゆく。
訪問者はタウン誌の取材という紫色の服の女性倉野章子。話すうちにその取材というのはニセの口実で、風間にあることを訊きに来たのだとわかる。
倉野の息子長谷川博己が詫びにきたり、妻の父花王おさむも登場し、舞台はしばしば笑いを引き出しながら、いったい何があったのかという謎をはらんで進行する。家族にも内緒で電話相談のボランティアをしている風間、自殺した倉野の夫は死の直前にかけた電話で彼に何を話したのだろうか。非常識な行動は病気のせいだと診断された倉野は入院して治療を受けることになる。
休憩をはさんでの第二幕、快癒した倉野(明るいグリーンの服)と息子の長谷川が訪れる。「もうぜーんぶ忘れた」と不自然なほど明るい倉野。周りのみなもそれを口々に喜ぶ。しかし、そのとき風間杜夫が「それでいいのか」と言い出す。止める周囲に被いかぶせるように一気に事実を話し始める。いつのまにか風間は倉野の夫となって語る。この成り変りにもっていく迫力ある演技に引き込まれ、息を詰めて見入る。
それに続く倉野章子の長い告白には、新たな人物夫の父が登場する。観るものは舅の介護という一般的な概念でははかれないこまやかな心の機微を知る。重くなった場を全員の告白ごっこ(?)で和ませ、舞台中心は一段と親しみを深めた場面が展開する。
しかし、まだ心の奥にあることを話そうとしてとめられ、ひとりベランダに出て草花を見る倉野。彼女に声をかけて風間が「大丈夫じゃないけど」と言って舞台は終わる。
誰もが奥の奥に隠している深い悲しみ、それでもなんとか折り合いをつけて生きてゆく人間の宿命のようなものを感じずにはいられなかった。
95年に上演された心に残る舞台「夜中に起きているのは」で、ペンションの女主人八千草薫が言う「わかるわ、大丈夫よ」。今回の「大丈夫じゃないけど」はこれに呼応しているのであろうか?
なお、「夜からの声」のパンフレットには、「山田太一戯曲上演年譜」が劇評いりで載っている。地人会以外のプロデュースのものも網羅しているのが嬉しい。
投稿者 蒼木そら : 2004年10月11日 20:31
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